彼はバーカウンターに片肘をつき、
コロナビールを、くいっと喉に流し込んだ。
「僕、アウトドアが大好きなんですよ。
サーフィンやスノーボード。
あとキャンプやバーベキューも。
日頃残業だらけで、疲れ果ててる分、
自然の中で自分を解放したくなるのかな。
ええ、一人でも行きますよ。
テントの中でゆっくりと、自分だけの時間を過ごすのが最高なんです。
彼女にするなら、一緒に山や海に行ってくれる子がいいな。
でも、東京じゃ、なかなかそんな子いないんですよね」
「またぁ、啓太くんだったらいくらでもいるでしょう?」
可憐は落ち着いたトーンの声で返事をする。
いるいる!いるわよ!ここに。心の中ではそう叫んでいたのだが。
「将来は、海と山に家を建てて――」
目をキラキラさせながら将来の夢を語る彼。五十嵐啓太。
先週の合コンで一本釣りに成功。
ITエンジニア。イケメン。金アリ。彼女ナシ。
EXILEに入った若い子にちょっと雰囲気が似てるかも。
話なんて軽く聞き流しつつ、可憐は彼の瞳を見つめていた。
やっぱりカワイイな。今日はなんとしてもお持ち帰りしたいな。
そんな事を考えながら、カクテルグラスの端をちろりと舐める。
最近は合コンの打率もめっきり下落傾向だった。
久々のヒット、いやホームランなんだから、
このチャンスを逃がすわけにはいかないわ。
可憐は自分に言い聞かせる。
その為に、バカ高いボディクリームでお肌のケアをしてきたし、
下着だって抜かりはないし、“ピー”の処理だって――
啓太の話も一区切りついたようだ。
二人のグラスはもうほとんど空だった。
可憐は黙ったまま、彼の言葉の行方を見守っていた。
さぁ、誘って。
今夜、あたしはキミのものよ。
「ねぇ、この後どうする?」
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
「うーん、そうねぇ……」
一応、迷うフリをして目線を落とす。
「もし良かったら、僕の部屋この近くなんだけど――」
可憐は心の中でガッツポーズを決めた。
☆ ☆ ☆
キレイにメイクされていたベッドが乱れるほど、啓太は激しかった。
日頃スポーツをしているだけはあり、鍛えられた身体や動きには無駄がなかった。
服を着ているときのソフトな雰囲気とのギャップが堪らなかった。
男はこれぐらい野性味がないとね。
ネイルの先で目を瞑る啓太の頬を引っかく。
寝返りを打った彼の右腕に包まれる。
まさに期待通りの展開。
可憐は久しぶりに心も身体も満たされ、
啓太の厚くはないが引き締まった胸に抱かれながら、
吸い込まれるように眠りに落ちていった。
☆ ☆ ☆
小鳥のさえずりが聞こえる。可憐は目を覚ました。
見慣れない天井。一瞬、自分が何処にいるのか分からなかった。
そうだ。昨日、啓太くんと……
思い出すとポッと胸に火が灯るような気がする。
可憐は温もりを求めてベッドの隣に手を伸ばした。
あれ? いない?
ひゃあ!
なんと、啓太はテントを張っていた。
フローリングの床の上に。
そう……
あたしよりテントの方が落ち着くのね……
可憐の恋の炎は一気に萎んだ。
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