とある日曜の午後、
太一はひとり地元の商店街を歩いていた。
左右に並ぶ店先では、野菜や魚が照明を浴びてキラキラと輝いている。
通りは買い物袋をぶら下げた人々でそれなりに賑わっていた。
ん? なにやら前方から騒がしい声がする。
やがてモーゼの十戒のように人ごみが割れ、
その間を小学生の集団がずんずんと突き進んできた。
彼らは手に手にゴミはさみやビニール袋を持っている。
ポイ捨てをやめようー!
一人が声を出すと、
ポイ捨てをやめようー!
あとの者が繰り返す。
元気いっぱいだ。
ボランティアで街中の清掃をしているのだろう。
マナーの悪い大人が多いなか、こういう光景を見ると、
まだまだ日本も捨てたもんじゃない。そう思えてくる。
太一は通りの脇に身体を避け、少年少女達の善行を見守っていた。
おや?
子供の列に、どこかで見たような顔が混じっている。
小学生の中では、頭が一つ飛び出していた。あれは――
「おい、明日香」
あ。見つかった。そんな表情で彼女は振り向いた。
明日香は高校の時の同級生だった。会うのは久しぶりだ。
前回はたしか駅前で見かけたのだっけ。
その時は「彼氏が出来たの」なんてはしゃいでいたのだが、
今日の彼女は、なぜだか少しやつれて見えた。
「子供たちに混じってボランティアかい? 偉いじゃないか」
太一は喧騒にかき消されないように、大きな声で話しかけた。
「違うの……」
彼女はぼそっとつぶやいた。様子がおかしい。
「元気ないな、どうしたんだ?」
彼女はゴミはさみもビニール袋も持っていなかった。
「ははーん。道具を忘れたから、今日は声出し部隊なんだな」
太一は少し茶化すように、彼女の肩をポンと叩いた。
「……」
明日香は目線を下に落としたまま、返事をしない。
子供たちは吸殻やゴミを拾いながらどんどんと進んでいく。
「なんだよ、冗談じゃないか。ポイ捨て禁止運動で、吸殻を拾ってるんだろ?」
「ううん、違うの。
わたしも拾われたの……」
明日香はそう言うと、顔を両手で覆った。
彼女が以前、自慢げに見せた薬指の指輪が消えていた。
行き過ぎた行列から子供が二人戻ってきた。
嗚咽を上げる彼女の両脇を挟み、そのまま引き連れていった。
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