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「危険なゲーム」


ぶんっ ぶんっ

空気を切り裂くような音が聞こえてくる。

隣の和室からだわ。

タイガースの金本が素振りでもしてるのかしら?

んな訳ない。

じじいよ。じじいに決まってるじゃない。

我が家が誇るトラブルメーカーのしわざに決まってる。

マサ子はリビングから和室に続くふすまを開けた。

やっぱり。

義父が柳のような腕をフォアハンドで強振していた。

その振りの鋭さ。

八十間近の老人とは思えない。

修造という名前は伊達ではなかった。

「ちょっとお義父さん、何やってるんですか」

「うん?流行りのゲームじゃよ」

ぶんっ ぶんっ

ゲームって……、それはマウスじゃない。

マウスからパソコン本体に伸びるコードがムチのように畳を打っていた。

ヤダわ。ついにボケてきたのかしら。

模様替えで、とりあえず和室にパソコンを置いたのが間違いだったわ。

使い方を軽く教えたら、ハマってしまったのよね。

修造はすっとぼけた顔でマウスを振り続けている。

ああ。そんなに激しくしたら壊れちゃう。

「お義父さん、肩を壊しますよ」 (パソコンもね)

「なに、わしゃもっと激しく振れるぞ!そりゃそりゃ」

ついにコードがUSBポートから抜けた。

バッテリーが切れたように修造の動きが止まる。

「お義父さん、それはゲームじゃないんですよ」

「なに?違うのかい?ちゃんと検索してダウンロードしたんじゃが」

ダウンロード!よくそんな単語知ってたわね……。

どうせエロサイトを彷徨ってて覚えたんだろうけど。

「なにをダウンロードしたんですか?」

「ゲームじゃよ。ゲーム。コマーシャルでやっとるじゃないか」

「お義父さん、あれはダウンロードなんか出来ません。

電気屋さんとかゲームショップに行かなきゃ買えないんですよ!」

つい声が荒くなってしまう。

「でも、わしゃ確かにダウンロードってボタンをクリックしたぞ」

「まず、なんて言葉で検索したんですか?」

「ウィ、ウィ、ウィニーじゃったかな?」

じ、じじい……










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「ひとりでできるもん」


妻のミユキは友人の結婚式で出かけている。
休日で、なにも用事のなかった私は留守番兼子守だ。

四歳になるマサト。二歳のカナ。
二人のチビの面倒を見るのはなかなか大変だ。
私は家で子供たちの相手をしながら、
のんびりとプロ野球のオープン戦を観て過ごすつもりだった。

さぁ。飲むぞぉ。

冷蔵庫の中を見て愕然とした。
ビールがないじゃないか。

ありえない。

ビールなしで観る野球なんて。
カラシなしで食べる豚まんのようなものだ。
もっとも、これは関東で言っても通じない例えだが……。

結局。私は子供を二人連れて出かけるというリスクを犯しても、
ビールを買いに行くことに決めた。
何。近くのスーパーまでクルマで五分。
ミユキがいつもやっているのだから、私にだって出来るさ。

  ☆  ☆  ☆

私はスーパーで手早くビールとつまみを買い終え、
ベビーカーを押しながら駐車場に向かった。
すると先頭を歩いていたマサトが急に内股になり、むずむずと蛇行しはじめた。

「マサトどうした?」

「おしっこ」

幸い駐車場に出る通路のすぐ側にトイレがあった。
しかし、ベビーカーのカナを置いておくわけにはいかない。

「マサト。一人で出来るか?」

「うん。できる」

「よーし。それでこそ男の子だ。
パパはカナちゃんを見てるから、行ってこい」

「うん」

マサトは両手で股間を押さえながら走っていった。
そろそろおしっこぐらい一人で出来ないとな。
うんうん。我が子の成長は嬉しいものだ。
私はベビーカーの脇にしゃがみこみ、
すやすやと寝息を立てている娘の髪を撫でた。

「わーっ!」

なんだ!?

「パパー!助けてー!」

マ、マサト、どうしたんだ。
慌てて、カナを抱き上げ、トイレの中に突入する。

「マサトっ!」

彼はびぃびぃと泣いていた。

小便器に小さなお尻をはめ込んで。

「マサト、お前なにやってるんだよ」

私は目を覚ましたカナを自分の足元に立たせ、
マサトを便器から引っぱりだした。

「パパァー」

マサトが私の左足に抱きついてくる。
私はポケットから出したハンカチで、
マサトの尻と前を拭きながらたずねた。

「いったいどうしたんだ」

「だって、だって、ママが」

「ママがどうした?泣いてちゃ分からないだろう」

「とびちるからすわっておしっこしてよ!ってパパにいってたでしょ?」

むぅぅ。なるほど。そう言えば先日ミユキに怒られたばかりだ。

「そうだったのか。ママの言葉を守ろうとしたんだな。えらいぞ」

マサトのパンツとジーンズを上げてやる。

「でもな。お外では立ったままでいいんだ。
パパがママにもちゃんと言っておくよ。
男は立ってナンボなんだ!ってな」

私はマサトの頭をごしごしと撫でてやった。

「さぁ。行こう」

だが、今度は私の右足にしがみついていたカナが、べそをかきだした。

「あれ、カナちゃんどうしたの」

慌てて彼女を抱き上げる。

うう。生ぬるい感触。

こっちが立ったままやっちゃったか……











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